
「うちの子は、本当に電車が好きだな」
電車の図鑑を何度も眺めたり、駅へ行くと目を輝かせたり、車両の名前を次々と覚えたり。
そんな姿を見ながら、ふと、
「この好きな気持ちを、朝の支度や毎日の生活にも活かせないかな」
と思ったことはありませんか?
私は児童発達支援・放課後等デイサービスで子どもたちと関わる中で、電車が大好きな子への支援をいくつか試してきました。
通常の声かけではなかなか行動につながらなかった子が、電車にまつわる言葉や仕掛けを取り入れると、楽しそうに動き始めることがありました。
そこで感じたのは、子どもの「好き」は、単なる趣味ではなく、行動を始めるきっかけや、生活を支える力になることがあるということです。
この記事では、私が実際の支援で取り入れた方法と、その経験から考えたことを紹介します。
診断名の有無にかかわらず、電車が好きなお子さんとの生活や支援を考えるヒントとして読んでみてください。
「好き」を変えるのではなく、生活に活かす
子どもが一つのものに夢中になっていると、保護者としては、
- ほかのことにも興味を持ってほしい
- 電車の話ばかりで大丈夫だろうか
- 好きなこと以外にも取り組んでほしい
と思うことがあるかもしれません。
生活とのバランスを考えることは必要です。しかし私は、子どもの「好き」を減らすことから考えるよりも、その興味を生活にどう活かせるかを考えることを大切にしています。
電車の名前ならすぐに覚えられる。
好きな車両の写真には、自分から目を向ける。
電車に関係する話なら、楽しそうに反応する。
こうした姿は、その子が持っている大切な力です。
その力を、着替え、トイレ、荷物の整理、移動など、日常の行動につなげられることがあります。
子どもの好きなことや得意なことは、支援を考えるうえでの大切な情報です。診断名や一般的な支援方法だけでなく、目の前の子どもを見ることの大切さについては、発達障害の支援方法に正解はある?児発管が考える「知識より大切なこと」でも詳しく書いています。
なぜ電車を取り入れると行動につながったのか
私が関わったある電車好きの小学生は、身支度をとてもマイペースに進める子でした。
周囲の子が支度を終えて次の活動へ向かっていても、本人はまだ前の工程に取り組んでいることがよくありました。
「靴下を脱ぐよ」
「かばんからプリントを出そう」
といった通常の声かけでは反応が薄く、すぐに行動を始めることは多くありませんでした。
私は、その子が支度を進めなかった理由の一つとして、本人の中に支度を急いで行う動機があまりなかったのではないかと考えています。
周囲より支度が遅れていても、本人はそのことで強く困っているわけではありません。
大人は「次の活動に遅れる」「周りを待たせてしまう」と考えますが、それは大人側の事情です。
本人にとっては、今すぐ靴下を脱いだり、プリントを出したりする理由が分かりにくかったのかもしれません。
一方で、大好きな電車の世界を楽しめるなら、行動する理由が生まれます。
「トイレへ行かなければならない」ではなく、
「トイレ駅へ向かって出発する」
という活動に変われば、その子にとっての意味も変わります。
好きなものを使えば必ず動けるということではありません。ただ、本人にとって価値のあるものを取り入れることで、「やらされる支度」が「やってみたい活動」に変わることがあります。

この図のように、
- 子どもの好きなものがある
- 「やってみたい」という気持ちが生まれる
- 実際の行動につながる
- 「できた」という経験になる
- 次の行動へ向かう自信につながる
という流れが生まれることがあります。
ただし、これはすべての子に同じように当てはまる決まった法則ではありません。今回の支援経験から私が感じた、一つの見方です。
実際に取り入れて反応があった支援アイデア
ここからは、電車好きの子に実際に取り入れた方法を紹介します。
どの方法も、すべての子に同じような効果が出るわけではありません。「こんな使い方もあるんだ」という発想の一つとして参考にしてください。
「トイレ駅へ向かって出発します」
最も簡単に始められたのは、日常の行き先を「駅」に見立てる方法でした。
通常の声かけでは反応が薄かったときに、
「トイレ駅へ向かって出発します」
と伝えてみました。
すると、声かけに反応し、本人も乗り気になって移動することがありました。
特別な教材を用意したわけではありません。声かけの言葉を、その子が興味を持てる世界へ少し変えただけです。
ほかにも、
- 着替え駅
- 手洗い駅
- 荷物駅
- お風呂駅
- 歯磨き駅
など、生活の中の行き先を駅に見立てられます。
大人が一方的に駅名を決めるのではなく、子どもと一緒に名前を考えるのもよいと思います。
「快速で向かう?」と尋ねる
少し早く移動してほしいときには、
「早くして」
と急かす代わりに、
「快速で向かう?」
と声をかけることもありました。
これにも反応があり、本人が楽しそうに動き始める場面がありました。
電車好きの子であれば、
- 快速で行く
- 各駅停車で行く
- 特急で行く
- 発車する
- まもなく到着する
といった言葉が、行動のきっかけになる場合があります。
ただし、「快速だから走って」と危険な動きを促す必要はありません。家庭や支援現場の安全を優先し、歩いて移動する中で楽しめる表現として使います。
また、毎回「快速」を求めると、今度は早く行くことが義務になってしまいます。急ぐ必要がない日は「今日は各駅停車で行こう」と伝えるなど、遊びとして余裕を残しておく方が続けやすいと思います。
好きな車両の写真と一緒に移動する
次に試したのが、車両の写真を使う方法です。
好きな車両の写真を印刷し、行ってほしい場所に貼ったり、写真を本人へ渡したりしました。
そして、
「この電車と一緒に行こう」
と誘います。
これも、目的地へ向かうきっかけとして一定の効果がありました。
単に電車の写真なら何でもよいとは限りません。
その子が好きな車両が分かっているなら、本人のお気に入りを使った方が反応しやすいことがあります。
たとえば、はやぶさが好きな子もいれば、ドクターイエローが好きな子もいます。通勤電車、特急列車、地下鉄、貨物列車など、好きな種類は一人ひとり違います。
大人が有名な電車を選ぶよりも、本人がどの車両を見たときに表情が変わるかを観察することが大切です。
写真やイラスト、順番表など、言葉以外の方法を組み合わせる考え方については、言葉だけでは伝わらなかった子が変わった|視覚支援とAI活用の話でも具体例を紹介しています。
支度を終えると一編成が完成する仕掛け
準備には少し手間がかかりましたが、特に楽しんで取り組めたのが、身支度の手順と車両を組み合わせた方法です。
まず、身支度で行うことを、イラストや文字のカードにして壁へ貼ります。
たとえば、
- 靴下を脱ぐ
- かばんからプリントを出す
- 荷物を決められた場所へ置く
- トイレへ行く
- 手を洗う
といった内容です。
一つの行動が終わるたびに、そのカードを裏返します。
裏側には車両の一部分が描かれていて、すべてのカードを裏返すと、一編成の電車がつながって完成します。
この仕掛けを取り入れると、本人が楽しみながら支度を進めることにつながりました。
この方法のポイントは、単に終わった項目を消すことではなく、一つ終えるたびに好きな電車が完成へ近づくことです。
やるべきことの順番が見えるだけでなく、「最後までやってみたい」という動機も作れます。
もちろん、工程が多すぎると、完成までが遠く感じられます。最初は3枚程度から始め、本人が楽しめる範囲で増やす方がよいでしょう。
大きな行動を小さな工程に分ける考え方は、発達障害の子どもが「できない」を「できた」に変える|スモールステップの考え方にもつながります。
やることを駅にした路線図を使う
もう一つ、今後家庭向けにも形にしたいと考えているのが、路線図を使った方法です。
朝の支度や帰宅後に行うことを、それぞれ一つの駅に見立てます。
たとえば朝の支度なら、
- 出発駅
- トイレ駅
- 着替え駅
- 朝ごはん駅
- 歯磨き駅
- 荷物駅
- 玄関駅
というように並べます。
一つの支度が終わるたびに、子どもが自分で車両カードを次の駅へ動かします。
「次は着替え駅だね」
「荷物駅まで来たね」
「あと一駅で到着だね」
と確認しながら進められます。
これは、これから行うことの順番を見えるようにしながら、子ども自身が進み具合を操作できる方法です。
家庭によって支度の順番や必要な工程は違うため、駅カードを自由に差し替えられる形が使いやすいと考えています。
この教材については、内容と実際の使い方が固まってから、別の記事で詳しく紹介する予定です。
家庭で試すときに大切にしたいこと
電車好きの子にこのような方法を試すときは、電車の要素を増やせば増やすほどよいわけではありません。
最初は声かけ一つから試す
いきなり路線図や大量のカードを作る必要はありません。
まずは、
- 「トイレ駅へ出発しよう」
- 「着替え駅に到着です」
- 「快速と各駅停車、どちらで行く?」
といった声かけを一つ試すだけでも十分です。
反応があれば、写真やカードを追加します。反応がなければ、無理に続ける必要はありません。
本人が本当に好きなものを使う
「電車が好き」と一言でいっても、興味の向き方はさまざまです。
- 特定の車両が好き
- 駅名を覚えるのが好き
- 路線図を見るのが好き
- 時刻表が好き
- 踏切や発車音が好き
- 電車が動く様子を見るのが好き
車両の写真には関心を示さなくても、路線図なら夢中になる子もいます。
大人が「電車好きならこれが喜ぶはず」と決めず、本人がどこに興味を示しているかを見てください。
できたことを具体的に伝える
支度が終わったときは、
「えらいね」
だけで終わらず、
- 自分で次の駅を確認できたね
- 声を聞いてトイレ駅まで行けたね
- 最後まで車両を完成できたね
- 荷物駅でプリントを出せたね
と、実際にできた行動を伝えます。
何ができたのかが分かると、本人にとっても成功した経験を捉えやすくなります。
電車がなくても動ける場面を少しずつ残す
好きなものを活用することは有効ですが、すべての行動に電車が必要になると、家庭側の準備が大きくなります。
最初は電車の声かけやカードを使いながら、慣れてきた行動では少しずつ補助を減らすことも考えます。
たとえば、
- 車両写真を持ってトイレへ行く
- 写真を指さしてトイレへ行く
- 「トイレ駅」という声かけだけで行く
- 通常の「トイレへ行こう」で行く
というように、その子の様子を見ながら変えていけます。
ただし、電車の要素が本人にとって楽しい親子のやり取りになっているなら、急いでなくす必要はありません。
この方法が合わない子もいる
電車が好きな子なら、必ずこの方法が合うわけではありません。
たとえば、
- 好きな電車を支度に使われることを嫌がる
- 電車そのものに集中し、支度がさらに止まる
- 決めた路線や順番へのこだわりが強くなる
- 好きな車両が使えないと強く落ち込む
- 大人が電車の言い方を間違えると気になって進めない
といったことも考えられます。
実際に試してみて、かえって行動しにくくなった場合は、方法を変えて構いません。
支援で大切なのは、「良い方法を最後までやり切ること」ではなく、その子の反応を見て調整することです。
本人が楽しめているか、生活が少し進めやすくなっているか、家族や支援者の負担が大きくなりすぎていないかを見ながら使ってください。
朝の支度に使える無料教材も公開予定です
今回紹介したアイデアの中から、家庭でも使いやすい「朝の支度」をテーマにした教材を作る予定です。
現在考えている内容は、
- 朝の支度を駅に見立てた路線図
- 路線図の上を動かせる車両カード
- トイレ、着替え、朝食、歯磨き、荷物などの駅カード
- 家庭ごとに内容を書き足せる空白駅カード
- 駅カードを差し替えて使う方法
などです。
各家庭で朝の流れは違います。そのため、決まった順番を押しつけるのではなく、必要な駅を選び、順番も変えられる教材にしたいと考えています。
教材が完成した際には、使い方とあわせて別の記事で紹介します。
あなたのお子さんは何が好きですか?
今回は、電車好きの子どもへの関わり方を紹介しました。
しかし、子どもが夢中になるものは一人ひとり違います。
これから「好きをミカタに。」シリーズとして、子どもの興味や関心を生活や成長につなげるアイデアを増やしていきたいと考えています。
皆さんのお子さんは、何が好きですか?
「うちの子は、これに夢中です」
「この好きなものを、こんな場面で活かしたいです」
というものがあれば、ぜひフォームから教えてください。
1分ほどで回答できます。名前やメールアドレスの入力は不要です。
いただいた声を、今後の記事や教材づくりの参考にさせていただきます。
子どもの好きなことは、減らしたり、別のものへ変えたりするだけの対象ではありません。
電車が好きなら、
- 行き先を駅に見立てる
- 快速や各駅停車などの言葉を声かけに使う
- 好きな車両の写真と一緒に移動する
- 支度を終えると車両が完成する仕掛けを作る
- やることを駅にした路線図を使う
といった形で、生活へつなげられることがあります。
今回の事例では、通常の声かけでは動き出しにくかった子が、電車の世界を取り入れることで、楽しみながら行動する場面が見られました。
その背景には、支度をしなければならないという大人側の理由ではなく、本人にとって「やってみたい」と思える動機が生まれたことがあったのではないかと考えています。
もちろん、同じ方法がすべての子に合うわけではありません。
大切なのは、その子が何に心を動かされるのかを知り、生活の中で無理なく活かせる方法を探すことです。
子どもの「好き」は、行動を始めるきっかけにも、成功体験を重ねる力にもなります。
電車好きのお子さんがいるご家庭では、まずは「〇〇駅へ出発しよう」という小さな声かけから試してみてください。